【あなたの知らない「ホエイ」の世界】episode.1  酪農⇒ナチュラルチーズ⇒ホエイ⇒豚⇒人へとつながるものがたり 

あなたの知らないホエイの世界 episode.1

朝も昼も夜も牛乳のモー!日本全国のみなさま、いつだっておはモーございます。

ご無沙汰しております。

日本のナチュラルチーズと「つくる人」を追いかけて早や20数年大和田百合香でございます。変わることない私の興味はといいますと、「ナチュラルチーズ作りの大元、酪農とチーズと、そのつづき」。

昨今の具体的な興味は、チーズが作られる場所や人、チーズのミルクを生み出す酪農家さん、母さん牛の食べているもの、それから、チーズを製造した後に残るホエイ(乳清)について。

チーズを作る現場で、いつだって生産者を悩ませる問題の1つが、ホエイ。

今回はその「ホエイ」に焦点をあてて、有効活用するためにアクションを起こしている人たちのユニークな一例をご紹介したいと思います。

春の千葉県いすみ市高秀牧場 黄色いホエイタンクと豚さんの物語をご紹介するよ!
春の千葉県いすみ市高秀牧場 黄色いホエイタンクと豚さんの物語をご紹介するよ!

ホエイってなんだろう?ほぼミルク、だけどミルクじゃないよホエイだよ。

「ホエイ」

みなさん一度は聞いたことがある言葉かと思います。

ナチュラルチーズを作るにはまず「乳」が必要ですね。
100gのナチュラルチーズをつくるのに、おおよそ1000g=約1リットルのミルクが必要な事はみなさん知ってらっしゃいますか。

※参考: 一般財団法人Jミルク「find New 牛乳乳製品の基礎知識 チーズの栄養

え?1リットルのミルクから100gのチーズしか作れないの?あとの900gはどこにいっちゃうの?と思ったあなた。

良いところに気がつきました~。

お答えしましょう。

1リットルのミルクから、「固形分」と呼ばれるたんぱく質や脂肪、ビタミンやカルシウムを代表とするミネラル、それらが約100gのチーズになりまして、残りの水分がホエイ(乳清)として残ります。これはただの水ではなくて、水に溶けるたんぱく質や、チーズにはならない糖分など実は栄養たっぷりなものなのです。

このホエイは、たとえばアスリートが筋トレ後に飲むプロテインの元になったり、ふつふつと加熱してリコッタチーズを作るために利用したり、はたまた最近ではホエイを煮詰めてホエイジャムになったり、さらにはここ数年注目を集めるブラウンチーズ製造へと有効利用されたり。中には果樹畑にまいて肥料にするという人も。

でも、再利用にはなかなかな手間や時間がかかるし、何よりコストがかさみます。

チーズ作りで残る大量のホエイ、どうしようかな?と悩んでいるチーズ生産者さんが多くいらっしゃいます。

キャラメルのように甘いブラウンチーズはホエイを煮詰めて作ります
キャラメルのように甘いブラウンチーズはホエイを煮詰めて作ります
ミルクよりも透明でちょっと緑がかった液体のホエイ、栄養たっぷりです
ミルクよりも透明でちょっと緑がかった液体のホエイ、栄養たっぷりです

ヨーロッパの農家で見た牛と豚と人の美味しい関係

ここで、フランスの田舎を1年半、チーズ農家を訪ねて放浪した若かりし日の私が見た景色のお話を少し。

フェルミエと呼ばれる、酪農からチーズまでを一貫生産する小さな農家が無数にあるフランスで、農家の庭やチーズ工房のかたわらで豚が飼われている光景をよく見かけました。豚さんたちが農家の鶏や犬と同じようにワラワラその辺を散歩していて驚いたこともしばしば。

でもその豚さんたち、何のため飼われているの?

ピレネー山脈標高1,500メートルチーズ農家の周りでのんびり寝ていた豚さん
ピレネー山脈標高1,500メートルチーズ農家の周りでのんびり寝ていた豚さん
羊が山を駆け巡る横で豚はチーズ製造後のホエイを飲んで寝ているという対比
羊が山を駆け巡る横で豚はチーズ製造後のホエイを飲んで寝ているという対比

それはチーズ製造時にたくさん出るホエイを飲んでもらうため。

私が滞在したフランスサヴォア地方のチーズ農家では、もっぱらホエイを豚にあげるほか、野菜クズや固くなったパン、チーズの切り落とし等々、日々の暮らしで出る人の食べ残しも豚にあげていました。機嫌よくホエイを浴びるように飲んで育った豚さんは、冬には農家の人が自ら精肉し、生ハムに加工したり冷凍保存したり。

トリッパという、土地の白ワインで煮込んだ内臓料理も美味しかった!「豚さんたちは寒く厳しい冬のためのご馳走だよ」と大切に丸ごといただく農家の暮らし、そして人と牛、チーズ作りのホエイから豚、そしてまた人へのエコ循環システムを体験しました。

の後日本に帰って十数年、日本全国のチーズ生産者さんを訪ねるときには決まってホエイの行く先を聞いてきました。

答えはさまざま。

そんな中、ホエイを豚にあげて育て、ソーセージなどに加工し販売を始めたチーズ工房さんが北海道足寄町の「しあわせチーズ工房」本間幸雄さんでした。

🌐しあわせチーズ工房 - 北海道足寄町

いよいよ物語は本丸!ホエイを120%活用するエコなホエイ豚プロジェクト始動

豚を飼うことにはさまざまなハードルがあり、誰でもひょいと飼える訳ではありませんが、本間さんの「ホエイ豚」には多くのチーズ職人さんが強く関心を持ったと思います。
その中のおひとり、千葉県いすみ市にある高秀牧場チーズ工房のチーズ職人大倉さんは、本間さんのホエイ豚を見て、自分もやってみたいと一念発起。

そこから「高秀牧場ホエイ豚プロジェクト」が進行していきました。

チーズ工房でモッツアレラチーズを製造中の大倉さん
チーズ工房でモッツアレラチーズを製造中の大倉さん
高秀牧場自慢のナチュラルチーズ
高秀牧場自慢のナチュラルチーズ
高秀牧場内ミルク工房ではチーズのほか牛乳、ジェラートも楽しめます
高秀牧場内ミルク工房ではチーズのほか牛乳、ジェラートも楽しめます

大倉さんと同じくチーズ職人である岡田さんと二人で、日々のチーズ製造のかたわら、早速、牧場の敷地内に手作業で柵を建てて豚の肥育場を組み上げたと思いきや、近隣から豚2頭を仕入れ(千葉県は養豚農家も多いです)、チーズ製造時に出るホエイをあげる日々が始まりました。

一般的な豚の飼育とは全く違う、基本ホエイで育つ豚。みんな手探り。でもこのプロジェクトを通じて、ウオッチングしている私にも地域と人の繋がりが見えました。

牧場に豚が来た!と地元紙に取り上げられると、近隣の農家さんから食べきれなかった柿や規格外のさつまいも、菜の花まで、どしどし集まるエコな飼料で豚さん達はすくすく大きくなっていきました。

チーズ製造をしながら豚を育て、と畜場を探し、その後の加工場を探し、最終的に豚肉や骨までを購入してくれる先を探すという大忙しの日々。私はその様子を「オモシロイ・・・やっちゃえ!大倉さん岡田さん!」とかたわらで勝手に応援していただけ(笑)ですが、2人の楽しそうな取り組みをウオッチし続け、早々に「高秀牧場放牧ホエイ豚肩ロース肉塊3㎏!」と予約したのでした。

ホエイ豚プロジェクトリーダー大倉さん(右)と岡田さん(左)本業はチーズ職人です
ホエイ豚プロジェクトリーダー大倉さん(右)と岡田さん(左)本業はチーズ職人です
豚さん達の小屋も手作り
豚さん達の小屋も手作り
ご近所からの柿を豚さんにあげる小さい大倉君(大倉さんの息子くん!)
ご近所からの柿を豚さんにあげる小さい大倉君(大倉さんの息子くん!)

あなたの知らないホエイの世界、今回のエピソードはここまで。

ホエ~おもしろい!と思ったあなた。次回は高秀牧場さんの酪農のお話からはじめます。

どうぞおたのしみに!

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