【前編】チーズのにおいと味、実はこういうことだった!ーミルクと時間と季節と人と【京都 和酪まつな】

においも味も、チーズの個性 京都 和酪まつな 前編

チーズのにおい、ちょっと気になったことはないですか。

「くさいけど、なぜか好き。むしろ、くさいから好き」

—そんな感想を持つ人もいるようです。

でも、「あのにおいって、いったい何?」と聞かれたら、答えられる人はぐっと減るんじゃないでしょうか。

京都市京町家(きょうまちや)のチーズ専門店「和酪まつな」店主、松原正恵さん(写真:筆者)
京都市京町家(きょうまちや)のチーズ専門店「和酪まつな」店主、松原正恵さん(写真:筆者)

その疑問に答えてくれたのは、京都市にあるチーズ専門店「和酪(わらく)まつな」の店主、松原正恵さんです。お店でもよくこんな声を聞くといいます。

「『チーズって、くさい…』って言いながら買っていかれるお客さん、けっこういるんですよ」

 笑いながらそう話す松原さん。

「でも、においには種類があるんです。チーズの世界では"香り"と表現することが多いんですけどね」

チーズの世界で「香り」と表現するほど、大切な部分ということがわかります。その種類は大きく2つ。

においの種類は、「発酵(はっこう)が進むことで生まれるにおい」と「ミルクそのものが持つにおい」があります。
ひと口にチーズと言っても、その個性は驚くほど幅広いそうです。

モッツアレラチーズにオリーブオイルと胡椒(こしょう)(写真提供:和酪まつな)
モッツアレラチーズにオリーブオイルと胡椒(こしょう)(写真提供:和酪まつな)

「熟成が進んだものはクセが強い場合もありますが、フレッシュタイプにはにおいが気にならないものもあるんですよ」

そう聞いて、「確かにそうかも」と思いました。チーズって、全部「あのにおい」がするものだと思っていました。

そもそも、なんであのにおいがするんだろう。においが強いものと弱いもの、何が違うんだろう。

においの正体、実はシンプルです

「そもそも、チーズの"くささ"ってなんでしょうか?」

そう質問すると、松原さんは分かりやすく答えてくれました。

「簡単に言うと、ミルクの中にある脂質やタンパク質が、時間とともに少しずつ変化していくんです。その過程で、あの独特なにおいが出てくるんですよ」

つまり、あのにおいはチーズが時間をかけて"育った"証(あかし)ということです。

ラクレット(写真提供:和酪まつな)
ラクレット(写真提供:和酪まつな)

「熟成が進んだチーズほど、香りも味も強くなっていきます」

だからにおいの強い、弱いがあるんですね。

「フレッシュタイプのチーズは、熟成していないので、においはミルクに近く、やさしいです」

たしかに、モッツァレラやリコッタのようなフレッシュチーズを思い浮かべると、チーズ独特のくささはほとんど感じません。

「なので、“チーズが苦手”という人でも、実はフレッシュタイプなら大丈夫ということも多いんです」

時間をかけて変化していくものと、あえて変化させないもの。同じチーズでも、その違いだけで印象は大きく変わります。
“くさい”というひとことで片づけていたものの中にも違いがあることが分かりました。

“無理しない”チーズの楽しみ方

「じゃあ、チーズが苦手な人はどうしたらいいんでしょう?」

そう聞くと、松原さんはこんな提案をしてくれました。

「和酪まつな」店主の松原正恵さん(写真:筆者)
「和酪まつな」店主の松原正恵さん(写真:筆者)

「もし熟成したにおいが苦手なら、フレッシュタイプから入るのがいいと思います」

食べたいけどにおいが気になる人は、モッツァレラチーズやリコッタチーズを食べるといいですね。

「少しずつ慣れていくと、“これくらいのにおいは大丈夫かも”って感じるようになる人も多いですね」

無理をしないことが、チーズとの付き合い方のひとつのようです。
食べ方についても決まりはありません。

「チーズって、ワインと合わせるイメージが強いと思うんですけど、それだけじゃないんですよ」

たとえば、日本酒。

「国産ナチュラルチーズは特に、日本酒と相性がいいものが多いです。チーズの味がやさしいので、日本酒とすっとなじむというか。日本酒の繊細な米の甘みと、チーズの酸味、そしてアミノ酸の旨味がよく合うと思うんです」

さらに、少し意外な組み合わせもあります。

チーズの試食にコーヒーを添えて。チーズとコーヒーが合うことに驚く(写真:筆者)
チーズの試食にコーヒーを添えて。チーズとコーヒーが合うことに驚く(写真:筆者)

「コーヒーと合わせるのも面白いですよ。苦味とコクが合うチーズもあるので。朝食とかね」

そう言って、チーズとコーヒーを出してくださいました。
初めてコーヒーとチーズを一緒に食べましたが、意外なほど違和感がありません。コーヒーの熱さでチーズが口の中で溶けても、合うのです!

チーズはこう食べるもの、という決まりはなく、思っていたよりずっと自由。

“苦手だから食べない”で終わるのではなく、“ちょっと違う形で試してみる”。そんな挑戦ができることも、チーズの面白さなのかもしれません。

季節で変わる、チーズの味

「実は、同じ名前で売られているチーズでも味の印象が変わることがあります。
たとえば、夏に放牧している牧場のミルクからつくるチーズなんかは、夏と冬で味の違いを感じることがありますね」

その理由は、特別な技術によるものではありません。

「牛が食べているものが変わるんですよ。夏は放牧中に青草を食べ、冬は干し草が中心になるので、ミルクの質が変わってくるんです」

ミルクが変われば、チーズの味も変わります。

チーズ好きな筆者のお土産(写真:筆者)
チーズ好きな筆者のお土産(写真:筆者)

「同じ人が、同じ場所でつくっていても、毎回まったく同じにはならない。それが面白さでもありますね」

その揺らぎもチーズの個性になるのです。

「味わっていると、『ああ、今こういう季節なんだな』って感じることもあります」

そういう意味で、チーズは牛の暮らしや季節の変化を映し取ったものでもあるのだと実感します。

国産ナチュラルチーズを選ぶ理由

チーズにはプロセスチーズとナチュラルチーズがありますが、松原さんは国産のナチュラルチーズを取り扱っています。

なぜ松原さんは「国産ナチュラルチーズ」だけを扱っているのでしょうか。

「最初に北海道で、美味しいチーズをつくっている人を見て、目覚めました」

味だけではなく、その背景にいるつくり手の存在が大きいのだそうです。

ブラウンスイス牛。牛の下に笹が群生(写真提供:和酪まつな)
ブラウンスイス牛。牛の下に笹が群生(写真提供:和酪まつな)

「どんなふうに牛を育てているのかとか、どういう思いでチーズをつくっているのかとか。話を聞いていくと、その人だからこの味になるんだな、って思うことが多いです」

同じチーズでも毎回少しずつ違う—その理由は、単に季節や環境だけではなく、人の考え方や姿勢にもあるのかもしれません。

「北海道に行ったときに、すごく印象に残っていることがあって」

そう前置きして、松原さんはあるチーズの話をしてくれました。

「カマンベールって、ちょっと苦味があるもの、って思っていたんですけど、全然苦くないものをつくっている職人さんがいて。苦味を取ろうと試行錯誤したって聞いて驚きました」

カマンベールチーズ(写真:筆者)
カマンベールチーズ(写真:筆者)

「“苦いことが普通だ”と自分は思い込んでいたものを、その人はちゃんと疑っていたんですよね」

この出来事が強く印象に残り、自分の目で確かめた国産ナチュラルチーズを選ぶようになったそう。

後半では、松原さんがなぜ国産ナチュラルチーズに向き合うようになったのか、その背景にあるこれまでの歩みをたどります。


【取材協力】

🌐和酪まつな 🔗Instagram
 住所:〒602-0029 京都府京都市上京区室町頭町288−2

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