【三良坂フロマージュ物語・後編】牛が草を食べる音を聞きながら、松原さんが考える「豊かな生活」
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広島県三次市(みよしし)三良坂町(みらさかちょう)。人口1,700人弱のこの町に、チーズ工房「三良坂フロマージュ」があります。
前編と中編では、「三良坂フロマージュ」代表の松原正典さんが山地酪農に出会い、フランスでも認められるチーズを作るまでを紹介しました。
🌐【三良坂フロマージュ物語・前編】大阪育ちの少年が目指した「牛にも人にも環境にも負担が少ない」酪農の姿
🌐【三良坂フロマージュ物語・中編】広島の小さな町で作り始めたチーズが海外のコンテストで入賞!
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後編では、実際の山地酪農の様子と松原さんの思う「豊かさ」についてお伝えします。
牛とヤギが自由に過ごす山地酪農
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じゃあ、そろそろ、山へ行きましょうか
松原さんに案内され、筆者も山に入りました。
想像していたよりも歩きやすい、なだらかな山です。
これくらいのなだらかさが、山地酪農向きなんです。人間が歩きやすければ、牛も歩きやすいんですよ
と松原さん。
少し進むと、牛とヤギの姿が見えてきました。



ヤギ語はわかりませんが「これなあに?」「遊ぼ!」「頭がかゆいの」などと
口々に言っているような気がします
山の中で過ごす牛やヤギは、活発に動き回っていました。
とくにヤギは好奇心旺盛で、筆者のカバンに首を突っ込もうとしたり頭をぐりぐりとこすりつけてきたりと、まったくじっとしていません。
放牧場所は、草地の状態を観察しながら毎日変えています。暑い日は日陰ができる山林と竹やぶ、そうでない日は日当たりのいい場所を選びますね。草が十分に育ち、フンや尿が同じところに溜まらないようにするため、1日放牧した場所は数日から1週間休ませます
と松原さん。
天気の良かったこの日の放牧場にもたくさんの木陰があり、涼しく感じました。

そろそろ山から下りる時間です。
松原さんが区画を仕切っていたロープを外すと、牛たちはトコトコと自分で山を下り始めました。

途中で、文字通り「道草」を食っている牛もいました。
慌てない、急がない。穏やかな家路です。

ふもとまで下りてきました。
夕方から朝までは、店に近いこの草地で過ごすのです。
静かな景色の中で、牛が草を食べる音が響きます。たき火の音に似た、心地よい響きです。
いい音でしょう。僕はこの音が好きなんです。ずっと聞いていられる
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うちには14歳くらいまで現役で活躍している牛もいます。長くミルクを出せることも、この牧場の特徴のひとつかもしませんね
今、牛が食べているこの草が、明日にはミルクに変わります。そのミルクがチーズやソフトクリームに変わって、この町に少しお金を落としてくれます
僕が個人的においしいなあと思うのが、バターですね。うちのバターはたくさん食べても胃もたれしにくいので、つい食べすぎちゃうんですよ
そう言って、松原さんはおなかをさすりました。
チーズ作り以外にどんな苦労があったのかとたずねると、松原さんは少し顔をくもらせました。
これまでに、たくさんの失敗をしてきました。一番悔やんでいるのは、自分の無知で牛を苦しめたことです。
流産や死産を起こす『アカバネ病』という伝染病があるんです。その流行を知らず、予防接種をしなかったせいで大切な子牛を死なせたことがありました。
それ以来、獣医との連携はきちんと取るようにしています
ちょっとしたくぼみにハマって起き上がれなくなり、死んでしまうこともあります。牛って『こんなことで死ぬのか』ってことで死んじゃうんです。
つらいけど、落ち込んでばかりもいられないから、事故が起こらないように改善してきました。おかげで最近は大きなトラブルはないですね
メリハリのある暮らしができるのが酪農の魅力

冬の間は雪が降るのでふもとで過ごすんですが、春になって『さあ、今日から山へ行くよ』とロープを外した途端、牛もヤギも本当にうれしそうに山へ走っていくんです。
かわいいですよ
松原さんが目指した酪農で、牛たちは自由に山の中で暮らしています。では、働く人はどうでしょうか。
日本人は仕事に重点を置く人が多いようですが、欧米の人たちは仕事だけでなく、家族や余暇も大切にしています。早く家に帰るために、勤務時間内は生産性を高く保って、プロフェッショナルな仕事をする、そんなメリハリのある暮らしをしています
僕が大切にしたいのも『生活の豊かさ』です。成功するとかお金持ちになるとかではなく、自分たちでチーズや小麦を作ったり、肉をサラミにしてピザを焼いたりして、家族や仲間と食卓を囲む。そんなことが、本当の自由であり、本当の豊かさなんじゃないかと思うんです
なんでもいい、若いうちに挑戦してほしい

若いうちになんでも挑戦してほしいですね
と松原さんは言いました。
日本ってすごく安全なんですよ。たとえば、仕事でちょっと失敗したって、命まで取られはしませんよね。文字を読めない人はいないし、勉強しようと思ったらできる。日本には、挑戦できる機会がたくさんあるんです
僕が海外へ行った頃には、雑誌くらいしか情報源はありませんでした。でも、今はインターネットでいろんな情報にアクセスできて、海外の農家へ直接連絡を取ることもできます
失敗したっていい。若いうちは何回でもやり直せます。失敗を恐れて何もしないのはもったいないですよ。自分にどんどん投資して、いろんなことにチャレンジしてください
三良坂フロマージュでも、若い研修生が学んでいます。
小規模で多様な仕事を学びたいという人が集まってきています。僕もあちこちで研修させてもらいましたからね。挑戦したいという若い人を応援しているんです
取材を終えて
家に帰り、三良坂フロマージュのチーズやバターを食卓に載せました。
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柏の葉に包まれているのは、白カビチーズの「フロマージュ・ド・みらさか」。
右上の「フロマージュブラン」はヨーグルトに似たチーズです。
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松原さんが太鼓判を押すバター。
草を食べた牛のミルクで作ると、きれいな黄色になるそうです。
うわっ。これ、おいしいなあ……
普段は「バクバク食べられればOK」みたいに言っている筆者の家族も、幸せそうな顔で味わっています。
松原さんの言う「本当の豊かさ」が、少しわかったような気がしました。
【今回訪れた場所】
🌐三良坂フロマージュ(広島県三次市三良坂町仁賀1617-1)
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