【中編】ミルクをしぼる役割を終えた牛は、どこへ?酪農家に教わる「経産牛」のこと
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ミルクをしぼる役割を終えた牛は、どうなるんだろう。
考えたことはあっても、たずねる機会はありませんでした。
佐賀県嬉野市で酪農を営む中島大貴さんは最近、お乳をしぼり終えた牛のお肉を、食卓に届けるトライアルを始めました。
酪農は、循環の起点
佐賀県嬉野市で唯一の酪農家、ナカシマファームの中島大貴さん。
前編では、酪農家の朝ごはんを教えてもらいました。
中島さんの酪農は、ひとつの大きな円としてつながっています。
水田で育てた稲や麦を、牛が食べる。
その牛からしぼるミルクは、チーズになり、カフェのメニューになって私たちの元へ届く。
そして牛舎から出たフンや、店で出た生ゴミは、堆肥(たいひ)となってまた田んぼへと還っていく-。
稲作も牛乳も、チーズもカフェも、ゴミを土に戻すことも。
そのすべてを、中島さんは"まるっと"酪農として営んでいるんです。
「畜産は、循環の起点なんです」と中島さん。
牛は、その循環の真ん中にいます。
だとしたら、ミルクをしぼる役割を終えた牛は、この循環のなかで、どこへ向かうのでしょうか。

微生物たっぷりの牛のベッド資材として循環させています
(筆者撮影)
「酪農は、好きじゃない」
中島さんがミルクをしぼる役割を終えた牛のお肉に取り組みはじめたきっかけは、ナカシマファームに住み込みでやってきた、ある大学生でした。
畜産とはまったく関係のない、文系学部の学生。
お肉が好きで、大学を休学して、全国の肥育農家や精肉の現場を自分の足で回って研究していたそうです。
「牛やお肉のことを学ぶなら、肥育だけじゃなく、酪農も知っておかなきゃ」と、ナカシマファームにやってきました。
その大学生が、中島さんに言ったのです。
「酪農は、私はあんまり好きじゃない」
肥育は、お肉にするために育てて、2年ほどで出荷します。でも酪農は、長い年月をかけて飼い、最後はやっぱりお肉になる。
その大学生の目には、長いあいだ人間に飼われる牛が「かわいそう」に映っていました。
正直に思ったことを口にする大学生の言葉を、中島さんは新鮮に感じました。
「自分を否定されてる気持ちにもなるじゃないですか。でも、それを感じたいなと思って。そういう意見ってなかなかない、誰も言ってくれないんで。知りたいなと思って」
その大学生と過ごすうちに、ひとつの気づきに至ります。
「うちって、理念がニュウカルチャー(NEW CULTURE)って言ってて。牛乳とかチーズとかカフェとか、全部エネルギーにあふれてる。陰と陽だったら陽なんですよ。でもお肉って、どこかやっぱり陰っていうか、死じゃないですか。自分はほとんど、生の部分ばっかりやってきたのかなと」
ミルクもチーズもカフェも、明るい"陽"の文化として育ててきた中島さん。
でも、その循環のなかで「死」という側面は、正面から扱ってこなかった。
大学生の率直な一言が、その盲点を照らしました。
ミルクをしぼる役割を終えた牛のお肉のトライアルは、中島さんが「死」に向き合いはじめた、最初の一歩だったのです。

ごろんとする牛さん(筆者撮影)
ミルクをしぼる役割を終えた牛は、どうなる?
ミルクをしぼる牛さんは、専門用語では経産牛と言います。お産を経験した牛のことです。
そもそも、お産を経験した牛さんしか、ミルクはしぼれません。
中島さんのところでは、5産も6産もして、13年生きた牛もいたそうです。
「経産牛のお肉は、国産牛として売られています。国産牛って書かれていたら、それが和牛なのか、ホルスタインなのかわからないです。でも、だいたい国産牛って書かれていたらホルスタインの経産牛のことが多い傾向にあります。でも、それが焼肉セットとかになってるかっていうと、それはほぼなくて。だいたいひき肉とか加工肉とか、レトルト食品とか。そういう加工肉として口にしている場合がほとんどです」
ということは-
私たちは、知らないうちに経産牛のお肉を食べているんですね。
では、なぜ経産牛のお肉は、加工されるのでしょうか?
「乳牛の経産牛は、乳臭い、硬い、というイメージがあるみたいです。お肉のプロに聞いても、同じ印象を持たれているみたいなんで、意識して食べることはないそうなんですよね」
なぜそう言われているのかは、中島さんにもわからないといいます。
でも、大学生の言葉をきっかけに動き出した中島さんは、自分の牧場の経産牛のお肉を、初めて食べてみました。
「うちの牛を食べてみたら、まったくそんなことなくて。お肉のプロに食べてもらっても、噂とぜんぜん違う、おいしいと。むしろ、癖がなさすぎるぐらいで」
それは、飼育環境の良いナカシマファームの牛さんだから?
ふと疑問に思ったことを聞いてみると、中島さんは、さらっと答えました。
「今どき、牛を粗悪に飼っている酪農家は、ほぼいない。優秀で清潔で、愛情を持っている-そういう酪農家しか生き残っていないんじゃないかな。だから、どこの牛もきっとおいしいはず」
そこから中島さんは、経産牛のお肉を販売するトライアルを始めました。
思いがけずおいしい、経産牛のお肉。
中島さんはこのお肉を、どうやって私たちの食卓へ届けようとしているのでしょうか。
その挑戦は、後編で。

大麦も栽培している
(筆者撮影)
🌐ナカシマファーム 佐賀県嬉野市塩田町大字真崎1488
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