東京ドーム約8.5個分の牧草を刈って飼料にする!輸入飼料だけに頼らない岐阜の牧場
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岐阜県羽島市は、全国でも数少ない河川敷を利用した酪農地域です。
豊かな水が流れる広大な長良川の河川敷には、かつて300頭もの牛が放牧されている姿がありました。
現在、放牧はなくなったものの、河川敷の牧草を刈り取って飼料として活用することを続けているのが大井牧場です。
日本では輸入飼料が多いなか、約7割を自給飼料でまかなっている大井牧場の3代目オーナー、大井幸男さんを訪ねました。
家を継ぐ気はなかった
大井さん夏休みに家族で出かけることはなかったし、こんな仕事をするわけないと思っていました
幸男さんは子ども時代を、こう振り返ります。
当時は10頭ほどの牛を飼い、祖父母が働く姿をなんとなく見てはいたものの、積極的に手伝うことはなかったそうです。

大井牧場があるのは、長良川のすぐ近く。
幸男さんが子どもの頃は、周辺にあった家のほとんどが牛を飼い、河川敷で放牧をするのが当たり前だったといいます。
大井さん朝エサをやって、搾乳(さくにゅう)※した後に河川敷で牧草を食べさせ、夕方牛舎に戻すというのがこの地域の日常でした
※搾乳(さくにゅう):動物からミルクをしぼること
大井さん河川敷には200~300頭の牛がいましたよ
地域の人にとって、牛は身近な存在だったようです。
大井牧場は戦前から80年以上続く歴史があります。
しかし、休みなく働く両親や祖父母を見ていた幸男さんは、家業を継ぐつもりはありませんでした。
社会人になってからは、名古屋で営業の仕事をしていましたが、結婚が転機となります。
大井さん妻の父親に『なんで家を継がないんだ?』と言われて
大井さん私は長男なので、家を継がなければという気持ちは、ずっと心のどこかにあったんです
大井さんそれで『そんな人生もあるか』と思い、家業に戻りました

約7割の飼料を自給する
幸男さんは6年の会社員経験の後、家業に戻りました。
現在は、河川敷で放牧して草を食べさせていたスタイルから変わり、牧草を刈り取り、稲ワラを発酵させた「WCS※」や野菜の残渣などと混ぜた飼料をつくって牛に与えています。
WCS:ホールクロップサイレージのこと。作物を茎や葉ごと収穫して発酵させた、栄養たっぷりの牛用のエサです。

日本ではバブル崩壊後、円高によって安い輸入飼料が一気に増えました。
しかし、大井牧場では幸男さんが戻って人手があったことと、昔から牧草を利用するノウハウがあったため、自給飼料を続けています。
農林水産省によると、日本の飼料自給率は26%(2024年度概算)。
そんななか、大井牧場では自給飼料が約70%を占めています。
大井さんやろうと思えば100%自給できます
大井さんでも、自給飼料だけだと、天候などの条件で品質が変わって牛の消化が悪くなることもあるので、栄養を補完するために輸入のものも混ぜて使っています
大井牧場では東京ドーム約8.5個分にあたる40ヘクタールの河川敷の牧草を収穫しています。
毎年5~10月に牧草を刈り取り、1年分を保管して飼料として活用するのです。
最新のアプリを駆使して効率アップ
大井牧場では現在、従業員2名、アルバイト2名、さらに2022年から娘の樹里さんが仲間入りしました。
大井さん手伝ってほしいとか、継いでほしいとかは一度も言ったことはありませんが、自分がやってきたことを娘が継承してくれることはうれしいですね
大井牧場では現在約130頭の牛を飼い、搾乳には約2時間かかるといいます。
また、約15年前、業界でも早い段階からスマホアプリを導入して、牛1頭1頭の管理を行っています。
従業員全員が、牛の状態をリアルタイムにスマホを使って確認できるように。
発情が起こったらアラートが来るため、人工授精がスムーズにできるようになりました。

酪農は生き物相手の仕事。
24時間365日気が抜けません。
それでも「コンビニだって24時間。酪農だけが特別という気はしていません」と幸男さんは笑います。
大井さん365日休まず働く父と祖父を見てきましたが、私は週に1日は休日をつくるようにしています
大井さん家業に戻ってきたときから、どうやったら休みがつくれるかを考えてやってきました
アプリや自動で掃除をする機械などを活用している大井牧場。
先端技術も活用しながら、昔からある牧草の自給飼料も続けていきます。
【今回訪問した牧場さん】
🌐大井牧場 岐阜県羽島市 桑原町小藪西小薮2-333




