1台約7,000万円の巨大農機を操って農家を助ける集団?!茨城県小美玉市の酪農を救う「コントラクター」がすごい

美野里酪農業協同組合の事務所前にある牛の銅像の前で。左:森永乳業株式会社調達本部酪農部関東酪農事務所長の今西芳正さん。真ん中:美野里酪農業協同組合代表理事組合長の朝倉実行さん。右:美野里酪農業協同組合業務課長の小泉由紀子さん
美野里酪農業協同組合の事務所前にある牛の銅像の前で。左:森永乳業株式会社調達本部酪農部関東酪農事務所長の今西芳正さん。真ん中:美野里酪農業協同組合代表理事組合長の朝倉実行さん。右:美野里酪農業協同組合業務課長の小泉由紀子さん

365日生き物を相手にする酪農家にとって、毎日の牛の世話や搾乳(さくにゅう:ミルクをしぼること)は欠かせません。
「週末に家族で出かけたい」「子どもの運動会に行きたい」と思っても、家族経営の牧場では簡単に仕事を休むことができません。

そんな酪農家のリアルな悩みを、巨大な農機と見事なチームワークで解決しているプロ集団茨城県小美玉市にいます。それが「美野里(みのり)酪農業協同組合」です。
彼らが担う「コントラクター」という仕事。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は今、日本の地域農業を守るための重要なキーワードになっています。

今回は、美野里酪農業協同組合の取り組みに迫りました。


  1. 「コントラクター」って何?なぜ必要なの?
  2. 初代から受け継がれるブレない哲学「草づくり、牛づくり、土づくり」
  3. 「休めない酪農家」にとことん寄り添う、組合長の想い
  4. 実はビジネスとして強い?「牛乳」という仕事の底力
  5. 猛暑に挑む!大迫力の収穫現場と職人技の裏側
 

「コントラクター」って何?なぜ必要なの?

そもそも「コントラクター」とは何でしょうか。

コントラクターとは、一般的には「契約を請け負う人や組織」を指す言葉ですが、酪農業界の文脈では「農作業受託組織」を意味しており、農家に代わって牧草やトウモロコシなどの飼料(牛のゴハン)を畑で育て、収穫するプロフェッショナルのことです。

「自分の牛の飼料(牛が食べるゴハンのこと)くらい、自分で育てて収穫すればいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、現代の酪農においてそれを個人で行うのは至難の業なのです。

なぜなら、効率よく大量の飼料を収穫するための最新鋭の自走式大型農機(ハーベスター)は、2026年現在、なんと1台約7,000万円する機械もあるからです。3,000万円台で買えた時代もありましたが、現在は倍近くに値上がりしています。
さらに、円安の影響で海外からの輸入飼料の価格が高止まりしており、農家の経営を圧迫しています。
1軒の農家が数千万円の農機を買い、日々の牛の世話をしながら広大な畑の管理も行うのは、体力面でも資金面でも現実的ではありません。

そこで、コントラクターが高額な機械を一手に引き受け、地域の農家の代わりに良質な飼料を作るのです。
これにより、農家は莫大な機械投資コストを削減し、安心して牛の世話(酪農)に専念することができます。
まさに、コントラクターは地域農業を支える「縁の下の力持ち」であり、酪農界のヒーローなのです。

組合で活躍している1台約7,000万円の自走式ハーベスター
組合で活躍している1台約7,000万円の自走式ハーベスター
 

初代から受け継がれるブレない哲学「草づくり、牛づくり、土づくり」

美野里酪農協同組合の設立は、今から半世紀以上前の昭和37年(1962年)にまで戻ります。

当時はまだ酪農経営の規模が小さいのが一般的で、個人でほそぼそと作業をしていた時代でした。しかし、初代組合長は将来を見据えていち早く機械を導入し、共同化の道を開きました。北海道など、当時の先進地に何度も足を運んで技術を学び、現在のコントラクターの基礎となる仕組みを作り上げたのです。
平成8年(1996年)には大型の自走式ハーベスターを導入し、職員自らがオペレーターとして乗り込む現在のスタイルが確立されました。

それ以来、歴代6人の組合長が大切に受け継いできたのが「草づくり、牛づくり、土づくり」という理念です。
ただ作業を代行するだけでなく、良質な土から美味しい草を作り、それが健康な牛を育て、牛のふん尿が堆肥(たいひ)となってまた土に還る。このサイクルを守り抜くことこそが、美野里酪農業協同組合の根幹にあります。

環境負担を減らすこの取り組みは、まさに現代のSDGsに代表される「持続可能な取組」を半世紀以上前から実践していると言えるでしょう。

良質な飼料が健康的な牛を育てる
良質な飼料が健康的な牛を育てる
 

「休めない酪農家」にとことん寄り添う、組合長の想い

現在、6代目の組合長を務める朝倉さんは、酪農の現場を誰よりも深く知っているからこそ、ある強い想いを抱いています。

「酪農で一番大変なのは、やっぱり生き物を飼っているから365日気が抜けないことなんだよ。極端に言えば24時間。家族経営だと本当に休みが取りづらい」
と朝倉組合長は語ります。

「昔は子どもの運動会があっても、途中で帰ってまた牛の世話をしなきゃならなかった。だからこそ、組合が企業のように人を雇って、交代で休みが取れるような体制を作って、少しでも楽にしてあげたいんだ」

この言葉からは、単なる「作業の代行業者」ではなく、「同じ地域の仲間として家族の生活を守りたい」という深い愛情が伝わってきます。

農家の未来と家族の生活を熱く語る朝倉組合長(左から2番目)
農家の未来と家族の生活を熱く語る朝倉組合長(左から2番目)
 

実はビジネスとして強い?「牛乳」という仕事の底力

過酷なイメージが先行しがちな酪農ですが、朝倉組合長は「酪農という仕事のビジネスとしての強み」も教えてくれました。

実は、日本の生乳流通には生産者を守るしっかりとした仕組みがあります。
牛乳は栄養が豊富である半面、傷みやすく貯蔵がきかないため、農家は価格交渉で不利になりがちでした。
そこで現在では、農家に代わって生乳をまとめて販売し、乳業メーカーと交渉を行ってくれる「指定生乳生産者団体(指定団体)」という組織が活躍しています。

🌐参考:一般社団法人Jミルク「find New 牛乳乳製品の知識」生乳の生産・流通構造

日本の酪農家の大半はこの指定団体に生乳の販売を委託しています。そして、その価格は原則1年に1回決まるため、野菜のように「豊作すぎて価格が暴落する」「売れ残って畑に廃棄する」といったリスクが少ないのです。

「販売ルートを探さなくても、タンクローリーが朝牧場に来て生乳を集めていってくれて、翌月にはしっかりキャッシュとして振り込まれる。だから安定感は圧倒的にあるんだよ。銀行だって数十億円のお金を貸してくれるのは、返せる見込みがあるからなんだ」
と組合長は笑います。

つまり、肉体的な負担や「休みにくい」というハードルさえクリアできれば、酪農は非常に魅力的で安定したビジネスになり得るのです。
コントラクターの存在は、農家の負担を減らし、この「安定したビジネス」を地域で維持・発展させるためのセーフティーネットとして機能しています。

美野里酪農業協同組合の仕組みで地域の酪農家の負担を減らし、生乳生産を支える
美野里酪農業協同組合の仕組みで地域の酪農家の負担を減らし、生乳生産を支える
 

猛暑に挑む!大迫力の収穫現場と職人技の裏側

農家を休ませ、地域の酪農を守るために、コントラクターの現場スタッフたちは、夏の最盛期になると朝7時から夜8時まで長時間の収穫作業に奔走します。

近年は「8月の猛暑」という気候変動の影響により、畑の環境が激変。かつての栽培体系では作物が育たなくなり、現在では「デントコーンの2期作(年に2回トウモロコシを育てること)」にして、作物が大きく育つために必要な「毎日の暖かさ」をしっかりと確保するために一刻も早く種をまくという戦いを強いられています。

次回は、そんな畑の最前線に潜入!

1台約7,000万円の巨大ハーベスターと3台の伴走トラックが阿吽(あうん)の呼吸で連携する大迫力の収穫風景や、牛の飼料となる「サイレージ(発酵飼料)」を作るための、手間のかかる地道な作業と細かな調整が欠かせない現場ならではの技術の裏側に迫ります。

私たちが普段何気なく飲んでいる1杯の牛乳の裏に、どれほどのドラマが隠されているのか。

どうぞお楽しみに!


【取材協力】
美野里酪農業協同組合(2026年6月現在、Webサイト等はありません)

こちらの記事もいかがですか

前の記事へ

30歳まで農業を知らなかった私が驚いた!牛の「ごはん」から見る、身近なつながりを大切にする工夫