牛の飼料となる「サイレージ」に迫る。美野里酪農業協同組合と農家の職人技が熱い。

みなさんは「サイレージ」という言葉を聞いたことがありますか?

実はこれ、牛にとっての「ゴハン」。
品質の高い牛乳を作るために欠かせない、デントコーン(飼料、工業原料向けのトウモロコシ)や牧草などを発酵させた食べ物なのです。

前回の記事では、茨城県小美玉市で「休みにくい酪農家」を支えるプロ集団「美野里酪農業協同組合」の想いや取り組みをご紹介しました。

前回記事はこちら:🔗1台約7,000万円の巨大農機を操って農家を助ける集団?!茨城県小美玉市の酪農を救う「コントラクター」がすごい

今回は、そんな彼らが畑で繰(く)り広げる、ド迫力の収穫現場の最前線に潜入

1台約7,000万円もする巨大農機が疾走(しっそう)し、その後、農家の緻密(ちみつ)な計算と職人技でサイレージが仕込まれていく。
そこには、異常気象と戦いながらも牛のために飼料を作る、手間のかかる地道な作業と細かな調整がありました。

読めばきっと「牛のゴハン作りって、こんなに奥深いの!?」と驚くはずです。


  1. 1台約7,000万円!巨大農機とトラックが織りなす息を呑む「チーム戦」
  2. 「なぜ2期作?」気候変動と戦うシビアな農業
  3. ただ刈るだけじゃない。命運を分ける「鎮圧(ちんあつ)」と「密閉(みっぺい)」の職人技
  4. 私たちが飲む牛乳の裏側にある熱い努力
 

1台約7,000万円!巨大農機とトラックが織りなす息を呑む「チーム戦」

秋の気配が深まる小美玉市の広大な畑。
そこで活躍(かつやく)しているのが、まるでSF映画から飛び出してきたかのような巨大な農機「自走式ハーベスター」です。
なんと2026年現在、この最新型は1台約7,000万円。一昔前は約3,000万円台だったものが、今では倍近くに値上がりしているといいます。

収穫の最盛期ともなれば、現場はまさに戦場です。
夏の時期には、朝7時から夜8時まで長時間にわたる作業が連日続きます。ハーベスターの運転席(オペレーター)に座るのは、現場のリーダーである組合の職員たちです。
彼らは右手にある多機能レバー1つで巨大な機体を自由自在に操(あやつ)り、目の前のモニターでエンジンの状態や異常を常にチェックしながら、広大な畑を刈り進んでいきます。

そして、その巨大なハーベスターの横をピタリと並走するのが、スタッフが運転するダンプトラックです。1台のハーベスターにつき、3台のトラックがローテーションを組み、刈り取られたばかりのデントコーンを次々と荷台に受けて運び出していきます。

巨大な農機のエンジン音が鳴り響く中、電話や無線でリアルな会話が飛び交う現場は、まさにプロフェッショナルな「チーム戦」そのもの。
高額な農機たちが、息の合った連携プレイで畑を駆け抜ける姿は圧巻の一言です。

息の合ったコンビプレーで収穫していく大型重機たち
息の合ったコンビプレーで収穫していく大型農機たち
 

「なぜ2期作?」気候変動と戦うシビアな農業

実は、この大迫力の収穫風景の裏側には、気候変動と戦う現場の切実な努力が隠されています。

約10年前まで、この地域では春にデントコーンを植え、夏に収穫した後に「ソルゴー」という別の作物を育てるのが主流でした。しかし、近年異常なほど続く「8月の猛暑」により、畑の環境が激変。ソルゴーがうまく育たなくなってしまったのです。

そこで組合がシフトしたのが、デントコーンを年2回育てる「2期作」。
1回目の収穫が終わった真夏に、少しでも時間を節約するため「畑を耕さずにそのまま次の種をまく」という特別な方法(不耕起:ふこうき)などを使って、一刻も早く2回目の栽培をスタートさせます。
そうして、作物が大きく育つために必要な「毎日の熱量(積算温度)」をしっかりと確保するという、気候とのシビアなタイムアタックが繰り広げられているのです。

種をまいても暑すぎて芽が出ないリスクと戦いながら、秋の収穫(デントコーン約140ヘクタール)に向けて、緻密なスケジュール管理が求められます。

美野里酪農業協同組合で作られるデントコーン
美野里酪農業協同組合で作られるデントコーン
 

ただ刈るだけじゃない。命運を分ける「鎮圧(ちんあつ)」と「密閉(みっぺい)」の職人技

トラックで次々と運ばれた大量のデントコーンは、そのまま牛の口に入るわけではありません。
ここからが「サイレージ(発酵飼料)」作りの本当の腕の見せ所です。

刈り取られたデントコーンは、農家のところへと運び込まれます。その後、「スタックサイロ」と呼ばれる平地積みの牛の飼料を貯蔵するための場所へと移されます。
ここで登場するのがパワーショベル。職人たちは、ダンプから降ろされた飼料を、素早くかつ美しく積み上げていきます。

ここで最も重要になるのが「鎮圧(ちんあつ)」という工程です。
サイレージは、乳酸発酵させることで長持ちする飼料になります。乳酸発酵を行う乳酸菌は、酸素を嫌います。そのために、積み上げた飼料の中に空気が残らないよう、重機を使って「これでもか!」というほど固く踏み固めなければなりません。

パワーショベルで美しく積み上げられ、鎮圧されるサイレージ
パワーショベルで美しく積み上げられ、鎮圧されるサイレージ

さらに、ベストな発酵を促すためには、収穫するタイミングが非常に重要です。
組合では、デントコーンの実が黄色く熟す「黄熟期(おうじゅくき)」の中期から後期を狙って収穫を行います。これは、水分量や重機での踏み固めやすさを計算し尽くし、品質劣化のリスクをできるだけ下げるためのこだわりです。

可能な限り空気を抜くために、固く鎮圧した後は、巨大なポリフィルムで全体を覆(おお)い、その上に土を被せて完全に「密閉」します。
乳酸菌の添加も含め、少しの妥協(だきょう)も許されない職人技。
円安で輸入飼料の価格が高止まりしている今、この「国産サイレージ」が、農家の経営を救う可能性のある武器となっているのです。

発酵された牛の飼料であるサイレージ
発酵させた牛の飼料であるサイレージ
 

私たちが飲む牛乳の裏側にある熱い努力

私たちが普段何気なく飲んでいる、冷たい1杯の牛乳や、さわやかなヨーグルト。

その裏側には、何千万円という機械を操り、猛暑や自然環境と向き合いながら、牛のために発酵ゴハンを仕込むプロフェッショナルたちの姿がありました。
彼らの「草づくり、牛づくり、土づくり」というブレない理念と、現場での確かな技術力は、地域農業を守り、私たちの食卓を豊かにする大きな支えとなっています。

次にスーパーで牛乳やヨーグルトを手に取る時、少しだけ小美玉市の畑を思い出してみてください。
あのド迫力の農機・重機と、手間のかかる地道な作業や細かな調整を惜(お)しまない、現場ならではの職人たちの息遣いを、想像してもらえると嬉しいです。


【取材協力】
美野里酪農業協同組合(2026年6月現在、Webサイト等はありません)

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