腹八分目、1日6回。牛のストレスフリーが支えるクローバー牧場の酪農

京都府の南部にあるクローバー牧場。

「牛のストレスフリー」をモットーにしていると聞き、牛たちがどのような環境で、どんな毎日を過ごしているのか、お話を伺いました。

  1. 牛のストレスのバロメーター
  2. クローバー牧場がたどり着いた「牛ファースト」の酪農
  3. 腹八分目!? 1日6回、牛の体に合わせた餌やり
  4. 牛目線で考える、快適な「住まい」づくり
  5. 規模拡大より、1頭1頭をきちんと見るという選択
 

牛のストレスのバロメーター

クローバー牧場は、松本徹さん、雅世さんご夫婦を中心に、家族で経営されています。

牛舎の横にあるベンチに腰かけ、甘えてくる飼い猫を抱きながら、雅世さんはふとこう言いました。

「牛たち、静かでしょ」

確かに──。

訪問した直後に一度だけ「モー」という鳴き声を聞いたきり。

その後は牛の声が聞こえていないことに気づきました。

これこそが、牛のストレスを測る大切なバロメーターなのだそうです。

健康状態は食事量や耳の立ち方、体温、フンの様子などからも判断できるそうですが、牛が穏やかに過ごしているかどうかは、鳴き声に最もあらわれやすいのだとか。

発情期などを除き、ストレスが少ないと驚くほど静かになるといいます。

 

クローバー牧場がたどり着いた「牛ファースト」の酪農

「とにかく、私たち家族は牛中心の生活ですからね」

雅世さんがそう語る理由は明確です。

牛の心身の健康こそが、牛乳の「味」や「品質」に直結する。

この考えのもと、約20頭を1頭1頭大切に、牛たちの暮らしを守るために、日々さまざまな工夫が重ねられています。

 

腹八分目!? 1日6回、牛の体に合わせた餌やり

腹八分目。

人間の健康法としてよく耳にしますが、まさか牛たちにも取り入れられているとは驚きました。

「もっと欲しいよ〜、っておねだりされませんか?」

思わずそんな質問をすると、雅世さんは笑って答えてくれました。

「たまに隣の牛のエサを、ちょんちょんってつつく子もいますけどね(笑)」

エサは、3種類の牧草に、10種類以上の穀類とビートを少量混ぜたもの。

牧草はアメリカから取り寄せています。

これは、徹さんが若い頃、5年間アメリカで酪農修行をし、乾燥した良質な牧草の重要性を学んだ経験が背景にあります。

クローバー牧場では、1日の食事を6回に分けて与えています。

一般的な牧場が1日2〜3回であることを考えると、かなり手間のかかる方法ですよね。

それでも徹さんは、毎回牛の表情や食べ方、体調を見て、エサの配合や量、時間までも細かく調整します。

その理由は、「牛それぞれが平等に栄養を摂ることが、均一な牛乳につながる」と考えているから。

強い牛だけが多く食べる状況を防ぎ、全頭が同じコンディションでいられるようにするための工夫です。

 

牛目線で考える、快適な「住まい」づくり

近年の夏の暑さは、牛にとっても過酷です。

そこでクローバー牧場では、夏は冷たく、冬は温かい井戸水を、牛たちの飲み水に使用しています。

牛が最も快適に過ごせる温度は、人間にとっては少し涼しいと感じるくらいの温度です。

風通しを最優先に設計された牛舎でも、真夏には30℃を超えるため、牛舎上部に設置されたミストで暑さを和らげます。

ただし、使いすぎると牧草が湿り、カビの原因になるため、ここでも細やかな調整が欠かせません。

クローバー牧場で飼育されているのは、すべてホルスタイン種。

体重は約600kgにもなります。

この大きな体を支える足腰への負担は大きく、特に立ち座りの際には捻挫などの怪我が起こりやすいそうです。

そこで導入したのが、牛1頭ごとの床マット。

クッション性のあるマットによって足を滑らせにくくなり、コンクリートの硬さや冷たさからも守られます。

乳房を直接床に打ちつけてしまったり、足で踏みつけるリスクも減り、怪我は大幅に少なくなったといいます。

 

規模拡大より、1頭1頭をきちんと見るという選択

クローバー牧場では、飼育頭数を増やすことは考えていません。

約20頭という規模は、松本さん家族が毎日牛の様子を細かく観察でき、声なきサインに気づける上限の頭数と考えているからだそうです。

エサを与える時間も、搾乳(さくにゅう、ミルクをしぼること)も、掃除も、すべては牛の生活リズムに合わせて行われます。

人が牛に合わせる──それは決して効率的とは言えないかもしれませんが、その積み重ねが、牛たちの穏やかな表情と、安定した牛乳の味につながっています。

実際に牛乳をいただいてみると、口当たりはさらっとしているのに、飲み終えたあともミルクの爽やかな香りが、口の奥にやさしく残りました。毎日の食卓にある牛乳だからこそ、こうした小さな違いに気づくのかもしれません。

牛のストレスをできるだけ減らし、1頭1頭に向き合いながら育てる。

その積み重ねが、この1杯の味につながっているのだと感じました。


取材協力

🌐農事組合法人クローバー牧場:京都府木津川市加茂町観音寺今辻38

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