気温20℃でも注意!?エアコンがない牛舎、ウシの暑さ対策ってどうなっているの?
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みなさんは夏の暑い日、どうやって過ごしていますか?
エアコンが効いた涼しい部屋で、冷たい牛乳やアイスを楽しんでいる人も多いかもしれませんね。
でも、私たちがおいしく飲んでいる牛乳の裏側で、牛舎の中で猛暑と命がけで戦っているウシたちがいることを知っていますか?
実は、ウシは1年中毛皮を着ているうえに、お腹の中で熱が発生しています。
白黒の模様でおなじみのホルスタイン種のウシでは、湿度によっては気温が20℃前後から暑さの影響が出てしまう動物なんです。
今回は、猛暑から大切なウシの命を守るため、細やかな観察と環境調整を重ねてきた、茨城県笠間市(かさまし)・橘(たちばな)牧場の取り組みに迫ります。
ウシの体に熱がたまりやすいのはなぜ?気温20℃でも注意? ウシが暑さに弱い理由
「昔は扇風機だけで過ごせたよ」と、おじいちゃんやおばあちゃんが言うのを聞いたことはありませんか?
気象庁の報告書『日本の気候変動2025』によると、日本の年平均気温は1898年から2024年の観測データで、100年あたり1.40℃の割合で上昇しています。
最高気温が35℃以上になる「猛暑日」も全国的に増えています※1。
※1:「日本の気候変動2025 概要版」文部科学省 気象庁p.9観測結果(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2025/pdf/cc2025_gaiyo.pdf) 2025年3月
人間であればエアコンをつけたりと涼しい環境にして熱中症を防ぐことができますが、多くの牛舎にはエアコンがありません。
しかも、ウシは体温が人間よりも高くなるような身体の仕組みとなっています。
ウシは胃が4つの区画に分かれていますが、その中でも「ルーメン」と呼ばれるエリアは、ウシの胃全体の80%を占めるとされています※2。
※2:独立行政法人農畜産業振興機構 消費者コーナー 広報誌「【まめ知識】なぜ、牛の胃は4つもあるの?」(https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001316.html)
ルーメンの中にはたくさんの微生物が住んでおり、ウシが食べた草やサイレージをその微生物が発酵(はっこう)させています。
その発酵から生み出された成分をウシは吸収しエネルギーに変えています。
この微生物による発酵で「熱」が発生します。
つまり、ウシはお腹の中に「大きなストーブ」のような熱源を抱えて生きている状態。
気温や湿度が高くなると、ウシはこの熱を体外へ逃がしにくくなります。
日本で飼われている乳牛の種類で99%を占めると言われているホルスタインでは※3、快適な温度は5〜20℃とされています※4。
※3:一般社団法人Jミルク find New 生乳のはなし 乳牛の種類(https://www.j-milk.jp/findnew/chapter1/0101.html)
さらに注意が必要なのは「湿度」です。
気温が20〜22℃程度であっても、湿度が高くなるとホルスタインは「暑熱ストレス(暑さによる負担)」を感じてバテ始めてしまいます※4。
※4:千葉県農業改良普及情報ネットワーク フィールドノート履歴一覧 フィールドノート履歴一覧(畜産) 乳牛:暑熱対策のすすめ 令和7(2025)年9月22日更新(https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/field-chiku/chiku-2025-06.html)
暑熱ストレスがあると、ウシが横にならないで立ちっぱなしになったり、肩を揺らして浅い呼吸をし始めたりします※5。
これらはウシが出している「SOSサイン」なのです。
※5:北海道釧路総合振興局 産業振興部 釧路農業改良普及センター 「牛」が感じる暑さに備えを 3.暑熱ストレスを受けた牛は(https://www.kushiro.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/gijytu230530hon.html#chapter-2)

ルーメンは、お腹の中の左側大部分を占める
ウシの熱中症で起こること & 現場の「暑さ対策」大解剖!
①暑さがウシに与える深刻な影響
ウシがSOSサインを出し、暑熱ストレスを受け続けてしまうと、ウシの体や酪農にはどのような影響が出てしまうのでしょうか?
まず、暑熱ストレスを受けると、エサを食べる量の低下がみられます。
食べる量が落ちることは、乳量が減少する要因の一つとなります。
夏場に牛乳の生産量が落ち込んでしまうことには、ウシたちが暑さによって食べる量を減らしてしまうことが関係しています※6。
※6:独立行政法人農畜産業機構 調査・報告 畜産の情報 2022年9月号 乳牛を暑熱ストレスから守るには(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002379.html)
それだけでなく、暑さによって夏場の受胎率(子ウシを妊娠する確率)が低下するなど悪影響を及ぼしてしまいます※7。
※7:栃木県農政部畜産振興課 「ミルクの国とちぎ 乳牛の暑熱対策マニュアル 13ページ(令和8(2026)年度版)」 (https://www.pref.tochigi.lg.jp/g06/nyugyusyonetu.html)
そして、橘さんによると「熱中症が重症化すると、最悪の場合は命を落としてしまう危険性がある」といいます。
私たち人間だけでなく、ウシにとっても夏の暑さは、健康を損ねるだけでなく、命そのものを脅(おびや)かす問題なのです。
②命を守る!酪農現場で行われている「暑熱対策」の種類
こうした夏の暑さからウシを守るため、酪農現場ではさまざまな「暑さ対策」を行っています。
・強力な「送風・換気」
大型の扇風機や送風機を牛舎内に設置し、ウシの体に直接風を当てて体感温度を下げます。胸部に風を当てるのが効果的とされており、風速毎秒2mの風を当てると目安として体感温度が約8.5℃低下すると言われています。
・太陽光をブロックする「遮光・日よけ」
牛舎の屋根に遮熱塗料を塗ったり、屋根裏に断熱材を入れたりして建物内の温度上昇を防ぎます。
また、牛舎の窓や外周に「遮光ネット」を張ったり「グリーンカーテン」を作ったりして、直射日光を遮ります。
・水を活用する「散水・冷却」
スプリンクラーで屋根に水をまいて温度上昇を抑えたり、牛舎の中で細かな「ミスト」を発生させ水が蒸発するときに熱が使われることを利用(解説:気化熱ってなに?(本ページ内))して、空気を冷却します。
ただし、湿度が高い場合は効果が小さくなるため、十分な換気が必要です。
牛体へ15分間の散水することで、体表温度は1~2℃低下します。
・いつでも飲める、きれいな水の確保
暑い時期、ウシはたくさんの水を飲みます。
いつでもきれいな水を十分に飲めるよう、水飲み場をこまめに掃除します。

上に大型の扇風機が設置されており、
空気が循環している。
【この段落の参考資料】
・栃木県農政部畜産振興課 「ミルクの国とちぎ 乳牛の暑熱対策マニュアル(令和8(2026)年度版)」 (https://www.pref.tochigi.lg.jp/g06/nyugyusyonetu.html)
・独立行政法人農畜産業機構 調査・報告 畜産の情報 2022年9月号 乳牛を暑熱ストレスから守るには(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002379.html)
・千葉県農業改良普及情報ネットワーク フィールドノート履歴一覧 フィールドノート履歴一覧(畜産) 乳牛:暑熱対策のすすめ 令和7(2025)年9月22日更新(https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/field-chiku/chiku-2025-06.html)
橘牧場の事例ー「ソーカー」で命を守り抜け!
①手作業の限界から導入「ハイテク自動散水」
こうした数ある対策の中でも、さらなるアイデアでウシの命と健康を守っているのが、茨城県笠間市で酪農を営む橘牧場の橘陽平(たちばな・ようへい)さんです。
以前の橘さんは、暑熱ストレスの症状が出ているウシを日陰に1頭ずつ連れ出し、手作業で水をかけて冷やす作業を朝から夜まで繰り返していました。
しかし、50頭以上いるウシ全頭を人の手だけで冷やし続けることには限界がありました。
「このままではウシの命を守り切れない!」。
そう危機感を抱いた橘さんは2024年7月、牛舎の中に井戸水をウシの背中に直接かける装置「ソーカー」を導入しました。
ウシの背中や首元を狙って水を直接噴射する、まさに「ウシ用のシャワー」です。
・ソーカーの使い方
ソーカーは、ウシの体に水を直接かけて濡らし、その後に風を当てることで牛体を冷やす設備です※8。
注意点としては、水を出しすぎるとウシの足元が濡れてしまい滑りやすくなるので、調整が必要になります。
※8:千葉県農業改良普及情報ネットワーク フィールドノート履歴一覧 フィールドノート履歴一覧(畜産) 乳牛:暑熱対策のすすめ 令和7(2025)年9月22日更新(https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/field-chiku/chiku-2025-06.html)
ここで大活躍するのが、理科の授業でも習う「気化熱(きかねつ)」という仕組みです。
みんなも、お風呂上がりに体を拭かないでいると寒くなったり、病院で注射をするときにアルコール綿で拭かれると「ひんやり」感じたりしたことはありませんか?
湿度があまり高くない夏の暑い日に打ち水(道路に水をまくこと)をすると涼しくなるのも、この「気化熱」のおかげなんです!
・橘牧場ならではの使い方
橘さんは「床が濡れるリスクはあるが、体温上昇によってウシがストレスを受けないよう、体温を下げることが大切だ!」と考え、ノズルの角度を細かく調整し、ウシの背中や肋骨(ろっこつ)を狙って大量の水をかけるスタイルを生み出しました。
さらに、その「水が出る頻度」を工夫したのです。
気温が28℃を超えると15分間隔で6秒間自動で水が出てきますが、気温が35℃を超える猛暑になると、「約1分40秒ごとに1回、6秒間」という、ウシの状態と牛舎の環境を見ながら調整した頻度で水が注がれます。

橘牧場では、ウシ1頭ずつに対してノズルが設置されている。
②水×風の「気化熱」で体温ダウン!
橘牧場では、水をたっぷり浴びたウシに、上から大型扇風機で風を当て、ウシの体についた水を蒸発させ、体から熱を逃がしています。
この水と風の力によって、対策をしなければ約41℃まで上がってしまうウシの体温を、ソーカーの使用後、上昇が抑えられたことを橘さんは確認しました。
この方法を取り入れると、体温が下がって涼しくなったウシたちは食欲が復活し、ソーカーの導入後、ウシが飼料を食べる様子に改善が見られたといいます。
猛暑の真っただ中にもかかわらず、ウシたちは座って休んでいるのです。
さらに、夏場は暑さによる体調不良のせいで落ち込んでいた「子ウシを妊娠する割合」が、ソーカーの導入後は改善が見られたといいます。
「ウシが健康でいてくれることが、何よりの喜び」と語る橘さん。
ウシの状態と牛舎の環境を細かく観察しながら散水方法を調整し、夏場の暑熱ストレスを軽減する取り組みを続けています。

橘さんの牧場では座って休んでいるウシが多いという。
【まとめ】1杯の冷たい牛乳から考える、ウシさんの暑さ対策
私たちが普段、自宅や学校給食で何気なく飲んでいる牛乳。
さらには、牛乳からできるヨーグルトや牛乳を使用したミルクティーやカフェラテ。
その1杯の裏側には、気候変動による猛暑と向き合い、さまざまな工夫や最新技術を駆使(くし)して、ウシの命と健康を守り続ける酪農家さんの、情熱と努力が詰まっています。
次に牛乳やヨーグルトを手にするときには、命を守る人々のアツい挑戦に、ちょっとだけ思いを馳(は)せてみてください。
【取材協力】
橘牧場(茨城県笠間市)
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